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大阪高等裁判所 昭和32年(ラ)209号 決定

抗告人 不二クラウン株式会社

相手方 日本土地株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙記載のとおりである。

よつて、案ずるに競売法第三二条第二項民事訴訟法第六八七条第三項による不動産引渡命令は債務者(または不動産所有者、以下同じ)に対してのみ発しうると解すべきではなく、債務者の一般承継人に対して発しうることは云うまでもない。また、債務者の特定承継人であつても、競売開始決定による差押の効力が生じた后における債務者の特定承継人即ち、債務者から競売不動産上の権利例えば所有権賃借権等を取得して不動産を占有する第三者の如きは民事訴訟法第六五〇条の規定により競売手続開始決定の効力を受けその権利の取得を以つて差押に対抗できない立場におかれているものであるし、元来、同法第六八七条の不動産引渡命令は債務者の所有物件に対する売却手続である不動産競売手続において競落許可決定により競落人の取得した権利の実現を当該手続中において発するこの裁判によつて迅速に行い手続本来の使命を果そうとするにあることを考えると独立の債務名義を用いず、差押の効力の及ぶ第三者としてこの引渡命令を発し占有不動産の引渡を強制しうると解するのが相当である。右に反する抗告人の所論はその根拠に乏しく、当裁判所はこれに賛成しない。而して記録によると抗告人は本件競売手続開始決定の発効后に債務者から競売不動産を賃借してこれを占有していることが明らかであるから原決定は正当である。その他原決定には何等の瑕疵がないので本件抗告を棄却し主文のとおり決定する。

(裁判官 田中正雄 松本昌三 乾久治)

別紙

抗告の理由

一、債権者大阪府中小企業信用保証協会対債務者鈴木螺旋工業株式会社間の大阪地方裁判所昭和三十年(ケ)第三二七号不動産競売事件の競売期日に於て相手方は左記本件建物に対し競売の申出をなし昭和三十二年三月未日競落許可決定を得、代金の全額を支払い建物の所有権を取得した。

大阪市東淀川区三津屋北通四の二六地上

一、木造スレート葺平家建事務所 壱棟 建坪拾五坪

二、抗告人は競落許可決定前の昭和三十一年四月廿五日債務者鈴木螺旋管工業株式会社より右建物を壱ケ年分の家賃金参拾万円を支払い賃借し同日引渡を受け昭和三十二年三月二十三日再契約の上引続き賃借し現に占有中である。

三、競落人の不動産引渡請求権は民事訴訟法第六八七条に明記の如く債務者に対し有するものであつて第三者が占有するときは所有権に基き引渡請求の訴を提起すべきである(前野順一強制執行法)

判決の既判力は債務者の特定承継人に対しては異説はあるが口頭弁論終結後の承継人に限られ判決外の債務名義についてはその債務名義成立後の承継人に限られそれ以前の特定承継人に対しては新に訴を提起する外ない。

不動産引渡命令は抗告を以て不服を申立て得る裁判であり債務者鈴木螺旋管工業株式会社に対する不動産引渡命令後執行済に至る迄の間に抗告人が占有を承継した場合には債務名義成立後の承継人となるが本件抗告人の如くそれ以前の占有承継については引渡命令を発すべきでなく相手方は新に訴を以て引渡を求むべきである。

反対説は占有の権限たる本件(賃借権)そのものは競売手続の上で消滅せられながら占有だけの移転を目的とする訴を必要とするは権衡を失する結果となると云うが判決に於ける口頭弁論終結前又はその他の債務名義成立前の債務者の特定承継人が債権者に対抗し得る場合は別として債権者に対抗し得ず新に訴を以て請求されるときは債務者の敗訴は明白であると思われる場合に於ても既判力を及ぼさず新な債務名義を必要とするのは債務者に事実及法律関係を認識させ敗訴も亦止むを得ないとの法の感銘を与えようとするものである。

反対説に従うときは口頭弁論終結前又は債務名義成立前の債務者の特定承継人に対しても既判力が及ぶことゝなり又ひとり不動産引渡命令に限り承継の時期を問はないとすることは民事訴訟法の体形上不合理である。

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